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ザックスくん

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ダブルシークレット 2

昨日の夜、予定よりも早く戻ってきたシンは、久しぶりのせいかとても優しくて、キラの目の前に、お土産をたくさん並べてくれた。
内緒でゲームもくれたし、街で買ってきたというジャンクフードも気前良く分けてくれた。
もう冷めてしまったハンバーガーにポテト。
それから、色んな色のキャンディ。
中でも派手な色のチョコバーは、路地裏で食べた懐かしい味で、もう一度食べたいと思っていたものだった。
きっと、お抱えパティシエのいるザラ家で見せれば眉を顰められるだろうが、添加物でいっぱいのチョコバーは、あの頃のキラたちにとって、何よりも大切な栄養源だった気がする。
シンは屋敷から外に出る機会が多いので、今でも口にしているようだったが、なかなかキラにはくれなかった。
アスランから止められているらしく、絶対に駄目だと取り付くしまもなかったのに、昨日は特別だった。
「二人だけの秘密だからな」
ひどく喜ぶと、シンは照れ隠しに怒った顔を作っていたが、嬉しいか? 美味しいか? と、何度も聞いてくるのが子供みたいで可笑しかった。
長期勤務から戻ったばかりで疲れているはずなのに、小言付きではあったが髪を洗ってくれて乾かしてくれた。
あんまり優しいから夢みたいで、キラは思わず目の前にあったシンの鼻を摘まんでしまい、バスタブに埋められそうになったほどだ。
夜だから静かにするようにと執事から窘められるほど楽しくて嬉しかったのに――本当に何があったのだろう?
アスランの部屋からシンの怒鳴り声がしたということは、アスランと何かあったのだろうか。
優しいけれど、アスランは気難しくて時々怖い。
今朝、アスランを起こしに行ったときには、特別何も感じなかったが、機嫌が悪いのかもしれない。
寝起きが良くないのはいつものことだから、怒ってはいなかったと思うのだが、とりあえずシンがピンチなのだからキラが頑張るしかない。
「よいしょっとっ」
いくつも踏み台を重ねてアスランの寝室の窓によじ登ると、キラは音ひとつ立てずに床に飛び降りた。
小さいながらも身のこなしはなかなかなものだが、腰の引けた所作は、ぎこちなくて、初めて狩りをする仔猫のよう。
飛び降りたときに背後にレースのカーテンが広がった。
室内は穏やかな静寂に包まれたままで、こんな形で潜入したキラの気分はスパイ映画そのもの。
潜めた息を吐いても、心臓がバクバクと音を立てた。
今朝、この窓を開けて、この場所から庭を眺めたときは、こんなことになるとは思わなかったが、緊急事態はいつも突然だ。
ドアの向こうの次の部屋が、シンの声がした執務室だった。
飛び込みたいが、まだ様子が分からない。
アスランの部屋のチョコレートのようなドアは、重厚で防音防炎の優れ物だった。
外側から引くと音がするのに、ひどくゆっくりと内側から押せば、音もなく開く。
以前、間違えてドアを引いていたキラに、アスランが教えてくれたのだ。
無理やり髪を洗ってくれようとしたメイドから逃げていた時に、そうやって匿ってくれた。
そのときの事を思い出しながら数ミリ動かしたドアは、室内の声や物音を聞きとるには十分ではあったが、予想以上に人の気配が近くて、キラは息を殺して目を伏せた。
――ドアを動かしたら、きっとバレる。
部屋に繋がるドアに耳をつけると、くぐもっていはいたが、ハッキリした声がドアから伝わってきた。
「――で、オマエはどうなんだよ。……クライン家でキラと面識があったのは、この中でオマエだけだ。本当に何も知らなかったのか?」
よく知っている、大人っぽいのに、ほんの少しだけ拗ねたような声。
直感的にアレックスの顔がキラの脳裏をかすめた。
アレックスがアスランの部屋にいるのは、とても珍しいことだった。
やはり、なにか大事な話なのだろう。
「知らなかったと言うか……残念ながら、キラについては俺もそんなに詳しくはないんだ」
溜息のようなアスランの声が応えた。
それは薄く開いたドアの真ん前から聞こえて、キラの場所から気配が一番濃い。
――シンは?
ドアの向こうからは、今のところシンの気配は聞き取れず、もしかしたら、もう出て行ってしまったのではないかと心配になったが、不意に聴こえた小さな舌打ちは紛れもなくシンのもの。
やはり3人いるのだ。
先ほどの剣幕は、もう過ぎ去ったようだが、シンの舌打ちは、やはり不穏だった。
キラは息を凝らして、さらに耳を澄ますと、急にドアのすぐ付近から声がして、その不意打ちには飛び跳ねた心臓を押さえなければならなかった。
「あの頃、ラクスから引き合わされても、まるで反応を試されているような気がして、出来るだけ関わりになりたくないと思っていたし、実際に、あの頃の俺には、そんな余裕もなかったから、キラについてはラクスに何も聞いてはいない」
キラについて――と、思いがけず自分の名前が出されて、キラはコクンと息をのんだ。
何故、自分の名前が出るのだろうか。
――どういう、こと……?
さらに、固い声で関わりあいになりたくなかったと言われ、少なからず傷ついていた。
優しいけれど、いつも本音を話してくれないと思っていたアスランの、本当の本音を聞いたようで、キラの胸は、なおさら軋む音をたてた。
確実なのは、この部屋にはアスランとアレックスがいること。
先ほどオマエと呼んだのも、今、呼ばれて応えたのも、全く同じ声質だが別人だ。
ふたりとも同じ顔をしたザラ家の双子は声質まで同じ。
彼らは、入れ代わっても見分けがつかないほど同じで、初めはキラも完全に二人を取り違えた。
微細な違和感があっても、それに気付くほど二人と親しくなかったせいもあっただろう。
任務で家を空けていたアスランが屋敷に戻って来るまで、彼らが双子だということすらキラは知らなかったのだ。
だが、先ほどのアスランの話のように、キラはアスランとだけは、以前に面識があったらしい。
だからこそ、アスランが奔走して保護してくれたのだと合点がいくが、キラの記憶は曖昧すぎて真っ白だったし、ザラ家で保護された当初は、狩られたのだと思いこんで、逃げる事しか考えていなかった。
実際、キラは自分とシン以外の誰の名前も知らなかったし、シンに拾われてからも眠ってばかりで、覚える余裕もない有様だったのだ。
その頃のキラは、すでにおかしかったのだろう。
すぐに水すら飲む力がなくなり、極度の衰弱で動けなくなって、シンを困らせたのちにアスランに保護されたのだ。
さらに、今のように動き回れるようになったのは、ザラ家に来て、手厚い看護を施されてしばらく経ってからだった。

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思うように時間がつかえてなくて
なんか色々ありました。

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