忍者ブログ

カレンダー

12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

プロフィール

HN:
ひなの
性別:
女性
職業:
ボタンつけ3級
趣味:
おひるね

ぶれぶれ

ブログ内検索

カウンター

バーコード

ザックスくん

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ダブルシークレット 3

「キラは……ラクスと過ごした記憶がないから彼女を恋しがらないんだと思う。俺は彼女からキラに引き合わされはしたが、キラの寝顔くらいしか見た事がない。ラクスが意図的に眠らせていたことに意味があるとしたら、ここで自由にさせていいものか、俺には分からなくなる」
「そんなものが……忖度しなきゃならない内容ですかね」
チッと、シンのものらしき舌打ちが忌々しげに遮ったのを聞いたとき、キラは喉の奥になにかが詰まったように息が出来なくなった。
「だってそうでしょう? 病気でもないのに眠らせておくなんて、明らかにおかしすぎるだろっ。俺といたときもキラはオトナシイものだったよ。ほとんど抜け殻で、食事を摂る時間すら起きていられない。元々枯れ枝みたいな腕がどんどん細くなって透き通っていくんだ。そうやって衰弱して行くのがどんなものだったか、アンタらに見せてやりたい――。お陰でこっちは、どれだけ闇医者に金を注ぎ込むことになったか」
まくし立てるように、やりきれなさそうにシンは怒鳴った。
キラは打たれたように、身体を震わせた。
迷惑をかけていたのは知っていたが、シンの口から直接内容を知ったのは初めてだったのだ。
「……多分、眠らせておくことがキラにとって最良のコントロールだったのかもしれない。このデータが正しいとしたら、キラがあんなに幼いはずがない。それに、こんな風に幼いままに出来るなら、それを行ったことに根拠がないはずはないだろう。本当に俺の知る限り、彼女はずっとキラを大切にしていたんだよ」
噛んで含めるようにも、苦い物を飲み込むようにも聴こえるアスランの声には、それでも少しの動揺が窺えた。
そしてそれが、さらにシンの逆鱗に触れることに、きっとアスランは気付けなかったのだろう。
「……正しいって何だよ。成長や発達具合は個々人それぞれだろ? それとも赤ん坊みたいにしておくのが大事だとでも言うのか? まさか、猫だから寝るのが仕事だとか考えてるんなら、アンタらは何も分かってない。そう思ってんのなら、大層な口を叩くアンタらにだって猫耳はペット扱いってことだ。何しろ優秀なコーディネイターさまの好奇心で遺伝子を弄って作り出した愛玩動物だもんな」
自嘲と怒りに震えるシンの声は、無差別に世界を責めていた。
猫耳は遺伝子操作で外見を操作するだけではなく、純血種ならばマスターの育て方で、後付けコントロール出来ると言われている。
遺伝子を最高レベルまでコーディネイトした猫耳の純血種は、奇跡と賞賛されるほど稀有な存在であり、その遺伝子までも芸術と言われている。
唯一の成功例とされるキラという猫耳の価値は計り知れない。
本来ならば、研究室の奥深くに仕舞われているはずのものだったのかもしれない。
けれど、何も知らない猫耳の子供は、ザラ家の陽だまりの中で無邪気に居眠りをするだけだ。
あまりに危機感のない平和な寝顔は、幸せそのもので、見ているだけで皆が癒される。
特別でも何でもない、当たり前のような可憐さと稚さは、きっと研究室で育てられたならば、あの繊細な容貌にはけして浮かぶことはなかっただろう。
キラ本人に自覚がないよう育てられたのが、マスターの愛情の粋たるものだということは、本当は三人とも気付いていた。
腹立たしいながらも、引き換えにラクスの引き受けたリスクも想像することも出来た。
だが、ドアの向こうで、怒りに任せたシンの声を聴いて涙目のキラだけは知らない。
――アイガンブドウブツって何?
聞きなれない言葉に胸を痛める猫耳の子供は、頭の中がパンパンで、世界がだんだん暗く閉じていくのを感じていた。
窓の外は晴れていて、窓から緑が覗いていても、写真の中のように現実感が薄いのだ。
とりあえず、シンはシン自身のことで困っているわけではなくて良かったのだが、騒動の原因が自分となると複雑になる。
文字通りキラという『お荷物』を抱えたばかりにストリートを追われたシン。
キラはお荷物で、厄介者。
けれど、そんなものがキラのマスターは欲しかったのだろうか。
アスランからキラには本当のマスターがいて、ずっと彼女はキラを探してくれているのだと教えられていたが、それを知ってなお、キラはザラ邸に置いて貰っている。
皆と別れるのが嫌だったからだ。
ここにいていいと言って貰えたから、ここにいられた。
それなのに、ドアの向こうの声達は、寄ってたかって引き取ったことを後悔していると言っていたようで、キラはドアの前でペタンと座りこんでしまった。
アスランが、時期を見てラクス・クラインと会わせたがっているのも、何度も感じていたことだった。
――ここにいていいって言ってもらってるけど、迷惑はかけたくないし……アスランが困っているのだから、いつか会わなくちゃいけない。
そう思ってはいたのだ。
でも、どうすればいいのか分からない。
こんなとき、一人でどこかへ行ければいいのにとキラは思う。
いつか、遠くへ行けるようになりたい。
出来るだけ早く、遠くへ。
無力さを噛み締める背中で、ドア一枚向こうから漏れる声は重苦しく暗い。
「とりあえず落ち着け、シン。……キラがラクス・クラインから大切にされていたことは嘘ではないだろう。だが実際にキラは全く覚えていない。アスランはキラと面識があっただろうが、本人を保護したときは何ひとつ覚えてなかったんだろう? ここに来て、俺はキラからラクス・クラインの話を聴いたことは一度もない。強いて言えば、彼女からきた招待状の香りに少し反応した姿を見たことがあるだけだ。俺といても口を開けばいつもシンの話ばかりだった。キラにとって、シンが全てだったのは、間違いじゃない。だから君とキラとは特別だって思うのは自然だろう?」
落ち着いた声音だが、自嘲的な口調はアレックスらしい。
それに、シンのヤケクソぎみの声が重なった。
「それこそ勘ぐりすぎですよ。……とりあえず言われる前に言っておきますけど、俺はアイツに何も疚しいこと何もありませんよ? 拾ったのも捨てたのも俺だけど、それはアンタらみたいな豪華な食事も安全もアイツにやれなかったからだ。捕まったら可哀相だから、そのときは殺してやることが幸せだと思っていた。だから……誕生日なんてオメデタイ余裕は頭を掠めもしなかったよ。アイツは俺とは違う。それにアイツの耳には、初めから鑑札タグだって打ち込まれていなかった。それで俺にキラの情報なんか分かるはずがない」
普通の猫耳には、生まれてすぐに鑑札証が打ちこまれると言う。
テディベアのタグのようなそれには、登録された情報チップがあり、その猫耳自身のデータが記録され更新されることになっていた。
「シンは自分でタグを千切っていたと言うのは本当か」
「ああ、家畜じゃあるまいし、あんな物を付けられて嬉しい奴がいるかよ。アンタらだったら自分の耳にあんな物をつけられていたとしたらどうだよ?」
犯罪者ならば身体にチップを埋め込まれるが、要はそれと同じだと、シンは毒づいた。
この話題は、シンにとって楽しい話ではないはずだった。
それも、ここでザラ家の二人に怒りをぶつけても仕方ないはずからだ。
それなのに、敢えて傷口に指を突っ込んで掻き回さなければならないシンの気持ちを思うと、キラは泣きそうになる。
シンが自分のために、敢えてそうしているのではないから。
――きっと、キラのせいだ。
きっとアスランやアレックスには、あの夜の匂いや、ヒヤリと心臓を押し潰されそうな恐怖を、けして想像できないだろう。
キラとて、誰かに分かって欲しいとも思わない。
自分の心の中で小さく畳んで、その上に楽しい事をかぶせて隠していく。見えない見ない。
シンがそうしていたから、キラもそうした。
それを、三人がかりで掘り起こさなければならないほどのことがあったのだろうか?

-----
今朝は寒いです。
横になるときついので徹夜してしまいました。

とりあえず続きあげときます

拍手

PR

Comments

Comment Form