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ザックスくん

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ミルキラ 夏休みの最後の日

 

「……冗談だろ?」
聞き間違いかと思った。
だから、もう一度問い直したのだが、目の前のクラスメイトは、そっと目を逸らした。
さっきまで元気に微笑んでいた顔に、一瞬だけヤバイと書いてあった。
逃げようとするから、アスランは反射的に後ろから首根っこを掴まえて、もう一度訊いた。
正直、まだ事態が把握出来ていなかった。
「ちょっとキラの言ってる意味が分かんないんだけど……データが飛んだにしてもバックアップくらい取ってあるだろ?」
返事は無言。
アスランの問いに、目の前のお子様はオモチャのように首を横に振るだけだ。
幼年学校の頃から一緒のクラスメイトは、アスランの理解の範疇を超えることがとても多い。
小さくて可愛いので世話を焼いてしまうのだが、あまり煩くしても良くないので、最近はやりすぎないように気をつけていたつもりだった。
けれど、そのやり方を間違っただろうか?
困ったように俯く細い首を見ていると、何故だか理由もなく憐憫の情に駆られて、自分の落ち度を考えてしまう。
「キラが困っているんだったら、データのサルベージくらいなら手伝うけど」
このときアスランは、ほとんど完成したデータを想定していた。
そのサルベージをキラが出来ないとは思わなかったが、何か問題があるのなら、アスランにも力を貸すことは出来る。
反省を込めて譲歩したのが功を奏したのか、ついに躊躇いがちだった花びらのような唇が開いた。
「だってきらね。データっていうか……まだやってないもん」
「……やってない?」
復唱しながら固まった。
アスランは学年トップだが、目の前のお子様の言葉が理解できない。
「うんそうなの。まだなの」
そんなこともかまわず、答える声は小さいがよどみない。
そして悪びれもせずに見上げる、澄んだすみれ色の瞳。
その、あまりの純粋さと透明感は一片の瑕疵もなく、アスランのほうが面食らう。
――やっていない、ぜんぜんって……? どういうこと?
アスランには想像がつかない。
「……課題、貰ったのは夏休み前だよね?」
「うん、そだね」
固まるアスランに、邪気の一切のない微笑みが答えた。
つじつまの合わない夢を見ているよう。
だが瞬きをしても、目は覚めない。
まぎれもなく、これは現実で、目の前のお子様は、やっていないと言ったのだ。
「ちょっとキラ……冗談だろ?」
えへへと笑うキラにアスランも笑おうとした。
思い切り笑い飛ばそうとしたが、そう出来ない。
その不快感を自覚して初めて、やっとアスランは事の重大さに気がついた。
「ぜんぜんやってなかったら……」
急に心臓が早く打ち出したのは、残暑の暑さのせいだけではないはずだった。
あまりの衝撃に、アスランは自分の膝から力が抜けていき、急速に世界が遠ざかるのが分かった。
この心もとなく途方に暮れる感覚は、用意周到なアスラン個人ではなかなか経験することはないものだっただろう。
――冗談ではないっ!!
アスランは叫びそうになる。
まさに冗談で済まない一大事が、一気に目の前で展開していた。
「何やってるんだよ、キラ! いったい今日が何日だか分かってるのか?!」
「えと、さんじゅういちにち? さんじゅうににち?」
小鳥の囀りのような可愛らしい声で小首を傾げられ、アスランは近くの木の幹を殴りたくなってくる。
「今日で夏休みは終わりなのに、課題が出来上がってなくてどうするんだよ?!」
想像すると、アスランのほうが蒼くならずにはいられない。
事の重大さに気づいていないのか、暢気なクラスメイトに眩暈がする。
少なくとも、マイクロユニット以外は出来上がっているかと思っていたアスランは、甘すぎた。
「……少しは慌てろよ! 夏休みは終わりなんだぞ?! 課題やってなくて、どうするんだよ?」
「大丈夫だよ。そんなことより、早くチョウチョ掴まえに行かないと、せっかく見つけたのに逃げちゃうよ?」
何かと危機感が欠如しているのは、アスランが甘やかしすぎたからだろうか。
「あのね。そんなことよりじゃなくて、ねえキラ。現実見なよ。この時点で課題より大事なことなんかないだろ? ほら行くよ」
事態を把握すると、即アスランは限界に達した。
争う一瞬が惜しい。
握り締めていたコブシを開いて、目の前の虫取り網を握る細い手首を強引に掴んだ。
「ちょっと引っ張ったら痛いよ、アスラン」
「ほら、急いで行くよ」
グイと引くとアスランよりも小さな身体は、簡単に動いた。
「え? 行くって、どこ?」
「キラの家」
「なんで? 今日はちょうちょ捕まえるって約束なのに!」
可愛い顔が悲しげに曇る。
だから、どうしてそんなに暢気にしていられるんだと、アスランは問い質したい。
「そんな場合か、馬鹿!」
キラは確かに可愛いとは思うが、こんなときは可愛いだけに腹立たしい。
とうとう怒鳴りつけて、アスランは振り返ることなく走り出す。
ある意味、振り返ったら負けだと知っているから振り向けない。
きっと下唇を噛んで、今にも泣き出しそうな顔をしているのは想像がついた。
美少女顔負けなそれは卑怯なほど可憐で、アスランと同学年とは思えないほど稚く見えるのだ。
「あすらん、そんなに引っ張ったら手がイタイよ」
「文句が言える立場じゃないだろ」
幼年学校の頃から毎日のように通った友人宅。
この夏休みも、ここで何度も遊んだ。
遊ぶばかりではなく、勉強もしたはずだ。
課題の話はしていたし、口頭ではあるが経過を確認してみたりもしていた。
なのに、何故に白紙なのだ?!
『夏休みの課題』が白紙。
それはアスランには考え付けないことで、想像しただけで眩暈がしそうになる。
無邪気な微笑みに、まんまと騙されてしまっていた自分をアスランは呪いたい。

「レポートは仕方ないから写させるとして、ネックは絵3枚と読書感想文か」
絵はキラに描かせるとして、自分は読書感想文を片付けたほうがいいだろう――と、アスランの頭の中はフル回転で段取りを立てていく。
だが、机に向かうアスランの隣で、餌を待つ小鳥のようにキラが見上げてきた。
「あすらん、絵も読書感想文も自由提出だったよ?」
「え?」
真剣なアスランに、しれっとキラが言う。
だからしなくてもいいんだと、しないことを前提にしているキラに、アスランはポカンと口を開いた。
「あと、マイクロユニットの提出も、見せびらかしたいくらいカッコイイのが出来た人だけでしょ? だったら、きらは無理だもん」
だからしないと、あっけらかんとキラは言う。



とりあえずここまで
明日っていうか、できたら今日あぷする

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