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ミルキラ 夏休みの最後2

さすがのアスランも、このお子様の能天気さには二の句が継げなかった。
「あのね、キラ。確かに自由提出かもしれないけど、何か提出しないと課題の点数がゼロになるって分かって言ってるよね?」
「それは、そうなると思うけど、なんで?」
何でと問われて、アスランは目を伏せて息を吐いた。
噛んで含めるように言っても、こういうとき、キラには伝わりにくい。
分かっていてどうして、こうも危機感がないのだ。
「なんでじゃないだろ? それでゼロになったらどうなるの??」
「だから……ゼロかもしれないけど、でもそれは仕方ないっていうか……そういうこと」
へらりと肩をすくめて笑われると、アスランの方が焦ってしまうのは、何故だろう?
考えるまでもない。
何故なら、数ヵ月後には泣きべそをかいて泣きついてくることが確実に見えているからだ。
「あのね。ゼロっていうことは、つまり課題分の点数が加算されないっていうことだけど、キラはその分、テストで取り返せるわけ?」
ぐずぐず言わずにやれと怒鳴りたいが、『見せびらかしたいくらいカッコいいのが出来た人だけ』だとかほざかれたのが胸に引っかかっていたのかもしれない。
こんなに睨んでも、シブトイお子様はやるべきことから目を逸らすことに必死になっているようで、嫌になる。

「もう、怖い顔しないで。なんでアスランが怒るの?。テストの点数と自由提出の課題なんて、関係ないもん」
「あのね。キラが分かろうとしないだけで、先生の意図をくみ取れば、そうなるんだよ?!」
叫びだしたいのをこらえて、噛んで含めるように言い聞かすが、パチパチと長い睫毛を瞬いたキラは納得いかなげに首を傾げるだけだ。
「もしかして……そんなにハッキリ先のことが分かるって、アスランがエスパーだとかそういうスゴイ理由?」
もしもそうだったら、ちょっとは考えなくちゃいけないけど、そんなことないよねと、クスリと笑って肩をすくめるキラに、アスランはキレそうになる自分を必死で押しとどめ続けているが、すでにその修行はマスターレベルに達しそうである。
さすがに、これ以上は身体に悪い。
実際、先ほどからずっとシクシクと胃が痛むのだ。
「もういいから、とにかく最低限、絵か感想文のどちらかだけでも提出しろよ。課題点がゼロだったら、キラだって困るだろう?」
「うーん……困るっていうか、でもきっとどうにかなるんじゃない? いつもだってそうだったもん」
この期に及んでエヘへと自信ありげに笑われて、アスランは腹が立って仕方ない。
――どうにか出来たのは、誰のおかげだ?!
泣きついてくるキラに巻き込まれて、毎回死にそうになったのはアスランだ。
先ほどから警報のように胃が痛むのは、過去のアレコレを身体が勝手に思い出しているからに違いない。
「もう、時間がないから絵か作文のどっちか決めてやるよ。夕方までなら手伝ってあげるから」
正直、説得している時間のほうがもったいなくて部外者のアスランは焦っているのに、目の前の当事者には、ほとんど通じていないらしい。
本当に時間がないというのに。
「もう作文でいい。作文でいこう」
勝手に決めるとアスランは、キラのノートを広げた。
作文のほうが、アスランの感覚では簡単に思えたのだ。
「じゃあ、最近読んだ本で何か心に残ったものを言ってみて?」
当然のようにキラのキーボードに手を置いてアスランは低く催促した。
キラの感想を拾って纏め、さっさと書き上げてしまうつもりだったのだ。
ぐずっていたわりにはアスランにさせることに疑問も持たないらしく、少し考えこんだキラは思い出したように顔を上げた。
「そういえば!『惑星探査機のユウウツ』っていうのが面白かったよ。探査になんか行きたくないのに何度も打ち上げられて、ついにグレちゃう探査機の本なんだけど」
得意げに喋りながら、思い出したのかキラは可笑しそうにクスクスと笑った。
とりあえず、やる気になってくれたのは良いのだが、アスランの眉間のシワは一気に濃くなる。
その本はアスランも知っている。
なぜなら、キラがおススメだと貸してくれた本だからだ。
知っているだけに、アスランはイラつきは半端ない。
「あのさ……キラの言うそれって、マンガで、しかもギャグだよね?」
低い声で問うアスランに、キラは何も知らずに瞳を輝かせた。
「そうなんだけど! でもすっごくおススメだよ!読まないと人生ソンすると思うな」
アスランは眉間を強く指で押さえた。
――どうしてキラはいつもこうなのだろうか。
「もっと、真面目にしろよ! 夏休み中、遊んでばかりだったわけじゃないだろう?」
怒鳴ったのにはわけがある。
アスランは夏休みの間、キラが真剣な顔でノートを睨んでいたのを見ていたからだ。
一緒に遊んでいたときも、何かとカメラを持ち歩いて構えていたし、モニタに浮かんだ細密で複雑なグラフもちらりと見ていた。
自由研究だと分かっていたが、出来上がるまで詮索しないようにしていた。
仮に、途中で暗礁に乗り上げて放り出してしまったという可能性は、往々にして有るにせよ、何かをしていたのは確かなのだ。
「途中でもいいから、出来たところまでまとめて提出するという方法もあるんだよ?」
譲歩するアスランに、あっさりとキラは首を横に振った。
「だって、何もしなかったわけじゃないけど、それはキラがしたかったことで、学校の課題とは関係ないの。それにアレはね。たとえ何年かかっても、ちゃんと完成させるから、それまで秘密」
こんな状況なのに、煌く瞳で大切な宝物の原石を抱いているようなことを言うのが腹立たしい。
そこまで言うほどのものを作っているなら、なおさら腹立たしい。
「そういう大事なものがあるなら、なおさら形だけも提出できるものを作っておけばよかったのに」
口うるさいと思われようが、アスランは小言を言わずにはいられない。
けれど同時に、好きなことだけに打ち込むキラの潔さが羨ましくもあった。
不器用で滅茶苦茶だが、いつもキラは欲望に忠実で真っ直ぐなのだ。
気に入った目標が気に入ると、その一点だけを目指すのは、遊びも勉強も一緒。
近くにいるから分かるのだが、そのときの集中力は、いつも目を瞠るほどだった。
そんなキラのことが、学校側にも伝わればといいと願わずにはいられない。
だが、この差し迫った現状で希望的観測は無意味だった。
――仮に『ぼくの考えた最強のマイクロユニットの設計図』だとか、ふざけた内容であったとしても、キラにとっては宝物だ。
アスランとしては、出来るだけ見守りたいと思っている。
思ってはいるが、今は無理だ。
一応、キラの母親から信頼を置かれているアスランは、黙っていられない。
「とにかく、この経過はおばさんに言いつけるけど、いいの?」
アスランの冷徹な声に、キラの顔がくしゃりと歪んだ。
「アスランの意地悪! そんな卑怯な脅しには負けないもん」
「どこが卑怯なんだよ。おばさんに心配かけるなよ」
「だから、本当に学校に提出するものなんてないんだもん」
「開き直って言うなら、それをおばさんの前で言ってみな」
「そんなの出来ないってわかってるのに、アスランの意地悪!」
「課題出してないって後でバレても、どうせ叱られることになるんだ。叱られるだけならいいけど、下手したらオモチャとかゲームとか、前回みたいにまた没収されるぞ」
容赦なく言うと、明らかにキラの顔がこわばった。
「おばさんが怒ったら、しばらくおこづかいナシでオヤツ抜きってことも有りうるぞ」
「もう、ほっといてよぅ」
本気で泣き出されて、アスランはため息をついた。
泣かれると、余計に時間をロスしてしまう。
――どうするんだよ……もう。
一気に疲れが押し寄せてくる。
説得は平行線で埒があかない。
「いくら俺でも、今日になってゼロから作るのは無理だからな。泣いている暇があったら、少しはアイデア出せよ」
完全にすねて机から背をむける頑固な背中にため息をつくと、アスランは勝手にキラのノートの写真フォルダを開いた。
それは、一番更新度の高いフォルダだった。
やたら大きな容量の上に、最高機密と名前が入っている。
――ご丁寧にパスつきか。
それなりの付き合いだ。
キラの詰めの甘さは、よく知っていた。
案の定、いつもと同じものでパスはすぐに開いた。
その下のフォルダには、観察日記とある。
何か動物でも飼っているなら、それこそ自由研究向きなのにと、本当に何気なくそれを開いた次の瞬間――目の前に広がった膨大なサムネイルを確認して、そしてアスランは驚愕した。
「ちょっ……」
これは何だと訊いたつもりだったが、驚きすぎて言葉が続かない。
そこにあったのは、すべてアスランの画像や動画で、アスラン自身に覚えのない、あきらかな隠し撮りのものが大半だった。
さらに見覚えのあるグラフや、わけの分からない表がいくつも添付してある。
そのひとつを開くと、詳細なパーソナルデータで、まぎれもなくアスランのものだった。
どうやったのか、日々の身長と体重の推移の詳細まである。
「……なんてストーカーちっくな……っていうか、どうやってこんなものを」
唖然として凍りついたとき、大きな悲鳴とともにノートが奪い取られた。
「アスランのばか!キラの大事な研究、勝手に見ないでよ!!」
アスランの目の前で、真剣な眼差しをしたキラはノートを抱いていた。
「……宇宙的最高機密って」
ぽつりとアスランがつぶやくと、一気にキラの顔が真っ赤になった。
「見たんだね?! 勝手に見るなんてヒドイ! なんてことするんだよ! 大事なものなのに」
「なんてことするのは、そっちだろ?! なにやってんだよ! これのどこが最高機密なんだよ!」
「機密だよ! バレたらアスランが怒るもん」
「いや、そりゃ怒るだろ?!」
「なんだよケチ! キラの大事なものなのに! ライフワークなのに」
「こんなものが、ライフワークじゃないだろ!! こんなの削除だ」
「やめて! 自由研究で学校に出してもいいから、消すのだけはやめてーっ!」
「こんなの学校に出せるわけがないだろ?! ちゃんと削除しろ」
「やだよ、夏休みのすべてをかけて作ったんだよ? 眠る暇だってなかったんだから、絶対に嫌だ」
「オマエは馬鹿か!」
「馬鹿じゃないもん、頑張ってるもん!」
「とにかく、削除だ」
「ぜったいやだっ!」
ノートを取り戻そうと手を伸ばすアスランにキラが飛びかかってきて、二人もろとも床に転がってしまった。
突然だったので受け身もとれなかったが、厚い絨毯に救われた。
「怪我したらどうするんだよ」
キラの頭を抱きしめたまま、転がったままアスランが言うと、キラは無言でむっくりと起き上がった。
「キラ?大丈夫なの?」
「うん、へいき。ノートも無事」
キラは振り向きもしない。
てっきり泣かれるかと思っていたアスランは、ぶつけた後頭部を撫でながら起き上がると重いため息をついた。
これからどうしたらいいのだろうか。
削除と課題。
一体、どうしてくれよう。
「……キラ、課題する」
やけにあっさりというと、キラは机に向かっていた。
まるで憑き物が落ちたような、涼やかな顔をしている。
だが、引っ張り出しているデータは、紛れもない例のストーカーチックな「観察日記」。
つまり、アスラン観察日記だ。
「こういうのは、やっぱり纏めて少しずつ発表しておいたほうがいいって気付いた。データって永遠じゃないもんね。だったら、課題にはうってつけってことかも」
「いや、ちょっと」
すごい速さでノートに向かい始めたキラに、アスランは二の句が継げない。
「やめて、キラ! そんな課題があるかよ! 人権侵害だ」
「アスラン、邪魔しないで。許可は取ってあるから大丈夫だよ」
画面から目を離さずに言うキラの声を遠くに聞きながら、アスランは肩を落とした。
詳細なデータの収集に、母親のレノアが関わっていることを、まだアスランは知らなかった。

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