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ダブルシークレット 5

「とにかく。腹立たしいのは分かるが――本当に彼女はキラを大切にしていたんだよ。それは事実で変わらない。手を尽くした上で、さらに俺にまで捜索を頼んだし、今回のことも藁をも縋る思いでパーソナルデータを開示したのだと思う」
「だから、なんで今なんだよ?! 本当に大事なら、そんなの、もっと早くするべきだろ? 時間が経てば経つほど捜索が困難になるのは、鉄則だって分からないくらい暢気なのか?」
掴みかからんばかりのシンの声は荒れていたが、それは事情を理解した上での苛立ちでもあった。
キラのような特殊な『生き物』の情報を公に開示することは、悪戯に危険を増やす危険性もあるのだ。
国宝級の宝石が紛失したという詳細情報が広まれば、それを自分のものにしてしまおうと動く者も増える。
事は、只の誘拐事件では済まないのだ。
もしも猫耳唯一の純血種が繁殖に使われたとしたなら、巨大な闇マーケットが形成されるのは確実となっただろう。
繁殖などと、生易しい使われ方がされるとは思えない。
いくらコーディネイターといえど、優れたものを所有することほど楽しいものはない。
さらに、もしもナチュラルの手に渡った場合、どんな使われ方をするのか、それを容易に想像出来るほどの施設を、ザフト所属の彼らは視て来ている。
それを容易く想像してしまえるから、シンは腹立たしくてならないのだ。
「軽率だと感じるのは――確かにシンの言う通りだ。それでも俺の知る限り、ラクスは全部を覚悟して動いていたと思う。要人の動きも闇マーケットの動向も常時マークしていたはずだ。だから今回のこれは、キラが連れ去られてから経過した時間を鑑みたうえで、たぶん彼女が『限界』だと判断した結果なのだと思う。併せてこれだけ引き伸ばしておいた大きな餌で釣れば、なにかが尻尾が出す――そんな一縷の願いに縋ったんじゃないだろうか」
自嘲的に声を潜めたアスランの、『限界』と言う言葉の意味は、実はとても重いもので、アレックスとシンは息を詰めて黙りこんだ。
彼女が心血を注いで捜索するキラを知りながら匿い、隠蔽しているのだ。
本当にそれは、ひどく罪深い。
ドアの向こうの沈黙を、キラでは正確に推し量る事は出来なかったが、アスランの淡々とした声が『よくない事』を言い、他の二人が同意しているのが分かってしまった。
以前からアスランは、本当のマスターだというラクスのことを教えてくれていた。
キラが自分から会いたいと言う日を待ってくれているのも知っていた。
けれど会いたいと口に出さないことで、アスランがホッとしているのも知っていたし、撫でてくれる掌が優しかったから、キラも忘れた振りをして誤魔化していたのだ。
――どうしよう。
いくら考えても、どうする力も猫耳のキラは持ち得ない。
勝負しようにも手札が少なすぎるのだ。
ドアの向こう側のアスランたちの手の中にカードがあるとすれは、きっとキラのものよりも確実に効果を発揮しえるはずで、それがどんなものか知ったとしても、キラが同じ物を手にする事は、ほぼ無理で、きっと優しい彼らは誰もそれをキラに望まないだろう。
けれど、それでは何も始められない。
ここに留まって、少しでも方法を探らなければならない。
キラの手の中には何もないのだ。
そう思い詰めるよりも以前に、とっくに膝から力は抜けていたけれど。
そんな悲愴な決意でドアの前で身体を縮める子猫に、彼らは気付けない。
「つまり……ラクスはキラが連れ去られた当初からずっと最悪を想定して動いているし、一度も諦めてはいない。あちこち飛び回る俺が、何か情報を掴んで帰るのではないかと捜索状況の話もしてくれる。……彼女に会うたび、ここにキラを隠していることが申し訳なくなる」
溜息交じりのアスランの声に、シンが即気色ばんだ。
「ちょっと、アンタ、今さら何言ってんだよ!」
「このままキラをここに置いて、それが本当にキラの為になるという保障はない。今、キラの身体に目に見えたトラブルが起こってないからいいようなものの、何かあったときはラクスでなければ分からないこともあるはず――」
「何だよ! 話が違うだろ! ちょっと、アンタも同じ顔なんだから、黙ってないで何とか言えよ。アンタだって、キラはここに置いたほうがいいって言っていただろ?」
「そうだが……でも実際に、ラクスと対峙すると、アスランがそう思うのも仕方ないかもしれない。誘拐されたとはいえ、セキュリティーの穴を突かれたにしろ、彼女に落ち度があると言って酷なのは事実だし、今までの捜索も、今回の情報開示の処理も的確だ。だからこそ、キラを隠しているという負い目があるだけこっちが不利ではある。たとえば彼女の財産を侵害している点においても、訴訟を起こされると全面的にこちらが負ける」
アスランに同意するアレックスに絶望したように長い息を吐いたシンは、『信じた俺が馬鹿だった』とキレた。
「二人して今になって……何を言ってんだよ! じゃあ、アンタらはどうしたいんだよ? 心配した振りして、結局、キラをマスターっていうのに渡すのがアンタらの最終目的だったのかよ?」
以前はシンも、マスターの元へ返して幸せになるなら、そうしたほうがいいと言っていた――ザフトの任務に慣れる前の多忙な頃のことだ。
そして、変わらず多忙とはいえ少し慣れた現在も、結局はシンもキラを一番にしてはいない。
そこまでの拘束権を、シンは持っていない。
そして、もしかしたら誰も持ってはいないのかもしれない。
その状態で、何年もキラを捜索し続けているラクス・クラインと比べて、キラを大切にしているとは胸を張って言い切れないのだ。
それに気付いているからこそ、シンは焦燥するのだ。
何よりも、一度シンは手に負えなくなってキラを捨てている。
だからこそ、二度目はない――それしか答えはないのに、実際は傍にいてやれる時間などわずかだった。
「……俺はキラがここにいるならいいって思ったんだ! キラが安全で何も困らなくて、幸せならそれでいいって思ったんだ。アンタはそれをキラにくれると言ったじゃないか。だから、俺はアンタにキラを渡したんだ。でも、アンタがキラを放棄して顔も覚えていないマスターだか何だかのところへやるって言うのなら、俺はキラと出て行く」
「出て行ってどうするんだ、ザフトは?」
「そんなものっ! 初めから続ける理由も意味もない! 軍人なんて楽しい仕事でも何でもないだろ!」

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\(^o^)/だいはっけん

普段、マスクを3枚がさねで使っているのです。
不燃布みたいなあれなのですが。
バサバサ使い捨てしてて
まあ、そういうものなのだけど

\(^o^)/偶然、ポッケに入れたままお洗濯していて
着るとき気付いて出してみたら

新品になっていました。
柔軟剤の香り付きだよう\(^o^)/

ちょっと吃驚しました。
今年のインフルはどんなでしょうか。
こわいです。

ダブルシークレットは、あと2回にするか
その後のアスランとデートする話も書くか
ちょっと迷い中です。

なんか、日記みたいにエピソードには困らないのだけど
だらだら書いちゃうので、面白くないかもって思ってしまうのです。


(✿╹◡╹✿) ま、いっか。

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あすたん

あすらんおめでとうヾ(๑╹◡╹)ノ"
今日はアップ無理だけど
近いうちに必ずお祝いのおはなしかくよ。

リハビリ本も作りたいし
うん。
お掃除していて
表紙用の紙だとか見ていたら
カワイイ本を作れたらいいなって思いました。

時間を上手につかわなくちゃですね。

今日はアスランおめでとう。
まっていてね。

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さて

色々ありましたが、1つは良い方向に落ち着きました。

神様って、いるのかどうか分からないけど
感謝しています。

私にとっては奇跡だったです。><

あとは、喘息がどうにかなってくれないと困る。
眠れないから集中できないのです。
薬を飲むと少しだけ楽だけど、すぐに切れるので
病院ばかり行かないといけなくて、それもいやになります。


そんなこんなで
ちょっと落ち着いたら
もうアスランの誕生日がくるのですね。
なんだか
時間が経つのが早すぎませんか(∥◖◡​◗)

きらたんのもはやくしなくちゃ。


そうそう
新しいageでしたっけ?
面白そうだけど、なんかお子様向けっぽい絵に
なったのですね。
いちおう、みてみようかなあと思っています。

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10月になりました

早いですね。
もう秋です。

ちょっとばたついていて
気持ちも整理できず
止まっています。

ヘンなウィルスが流行っているので
皆様もお気をつけて。


きのうのよる
ちょっと死神をいじりました。
早く書きあげたいです。

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ばたついています

やだなあ><
連休中、あぷって思ったのに
ばたついています。

しかも継続中。
ちょっと涙目ピンチです。あう。


なので
とりあえず、さっき思った事を書きます。

猫キラたんの場合
アスランは寝転がってキラのこと胸に乗せて観察している感じ。
アレックスは上から囲って、じっとみつめて考えている感じ。

猫キラたんは、すーすー寝ています。

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なんやかんやで

いつの間にか季節が過ぎ
アスランの誕生日が近づいてきていて
あれ?
キラのは、短いはずだったんだけどなあとか
首をひねっています。

短いのか長いのか、だんだん分からなくなってきています。


思いもしなかった事が続き
わたしも不調中です。

しっかりしたい。
がんばらなくちゃ。

そんな事ばかり考えています。
あれ
これって愚痴なのかな。


いやいや、続きをアップしなくちゃ。
それから
アスランの誕生日やって

死神もさいごまでやらなくちゃ。
1冊はできてるけど
2冊で収まるのか、読んで下さる方がいらっしゃるのか
なんだか・・・いやいや、がんばろう。

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ダブルシークレット 4

「俺は雑種だし、ブリーダーに捕まるつもりも売り飛ばされるつもりもなかったからな。鑑札タグがあろうがなかろうが俺のことはいいんだよ。そんなことより――ここに来たとき、アイツの耳に小さな傷痕でもあったか?」
明らかに糾弾を目的としたシンの声音は、誰にも問いかけてはいなかった。
静かな怒りの焔だけを灯すシンの淡々とした声音は、何も受け入れる余地があるはずがないのを物語っていた。
「あるはずがない。キラに鑑札なんか有るはずがないんだ……俺の知る限り、キラにそんなもの。むしろ無傷だったアイツの耳に傷を付けたはアンタだったよな?」
瞬間、さらに重い雰囲気が広がったのが、隣の部屋で耳を澄ます鈍いキラでも手に取るように伝わった。
掌に汗ばかりではなく、額からも嫌な汗が流れて、身体の震えが止まらない。
去年のクリスマスに、アレックスから負わされた傷がキラの猫耳にはある。
今はもう完治しているが、しばらく塞がらなかった、その傷のせいで夜になると発熱し続けたためか、思えばそのころの記憶も曖昧だった。
ただ、皆から甘やかされていた思い出だけが残っている。
傷のことを、ずっとアレックスが気にしていることをキラは知っていた。
あのときのアレックスが怖くなかったとは言わないが、それよりも、あのときのキラは猫耳を捨てたシンにショックを受けた状態だったので、たった一人の仲間に本当に捨てられたような気がして、目の前が真っ暗になっていた。
猫耳の傷の事はキラも納得していることだし、その何倍もアレックスからは可愛がって貰っている。
いつもお菓子をくれるし、この間は絵本と水栽培のセットもプレゼントして貰った。
確執のあったアスランとアレックスの双子同士も仲良くなり、シンと自分を入れた四人で上手く行っているのだと思っていた。
あのクリスマスの事件のことを掘り起こさないのは暗黙の了解だったはずなのに、それを敢えて口にするシンは相当、感情の歯止めが効かなくなっているらしい。
自分が何をしに、アスランの寝室に侵入したのかすら、キラは分からなくなっていた。
抱えた膝に額を埋めても、ドアの向こうから追求の声は、まだ続く。
「そもそもアンタの言う、キラが、そのクライン家で大切にされていたって言うのも怪しすぎる」
「それは本当だ、シン」
「……本当なら何でアイツは、あんなクズらに攫われてんだよ? マスター様なら、猫耳がアイツらに捕まったらどうなるか分からないはずがないだろう?」
以前、捕まれば骨までしょぶられると、シンが吐き捨てたことがある。
ブローカーにブリーダー。
猫耳を狙う組織は一部が摘発されても、途方もない金が動くだけに、その根は深い。
プラントは政府を挙げて、それらの検挙に力を注いでいるが、その政府内にすら怪しい動きが見え隠れしているのは、逮捕者が冤罪目的で駆け引きに持ち出す、きな臭い証言で明白だった。
だから、シンもアスランも疑念を消す事が出来ない。
深い闇を知るだけにアスランは言葉に詰まり、シンの糾弾に黙りこむしかない。
それはきっと、シンの怒りを煽るしかないのだ。
「俺はアンタに聞くまで知らなかったけど、アイツは俺とは違って唯一だとかいう純血種なんだろ? それをみすみす誘拐されて、今頃になって関係者だけに分かるとかいうパーソナルデータを公表して、『大事にしていた』なんて、どこに信じる馬鹿がいるんだよ。――それとも、『いま手元にありませんが、大金支払った猫耳だからツバがついています』とか言う意味デスカ? ……どいつもアイツを物扱いするのもたいがいにしろ」
怒声と同時にドン! と、何かを蹴飛ばしたような音が響いた。
聞いていられなくなって、キラはドアに背を向けたまま、身体を縮めて震えていた。
シンを助けるどころではなく、結局キラ自身のことで揉めていただけだ。
――シンくんが怒ってるのも、アスランとアレックスが困っているのも、また、キラのせいだなんて。
情けなくて消えてしまいたくなる。
猫耳が厄介者だということはキラ自身も身にしみて分かっていた――というか、いくら隠されても気付く。
『キラごときが俺の心配だなんて百万年早い』
落ち込むこんなとき、いつも意地悪なシンの声が甦ってきて、余計にキラを落ち込ませる。
「いきがって助けに行くなんて、本当に馬鹿みたい……」
滑稽すぎて笑おうとしたが、頬が強張って難しい。
――もう、猫耳なんかやめたい。
そうは思っても、キラではどうにもならない。
ハサミで切りとるわけにもいかないのだ。
ヒトと区別される猫耳は微妙な存在で、取り扱いにも厳重注意があるという。
それでも、およそ考えられないほどの金額と引き換えに、生きた宝石と言われる猫耳を欲しがる者は多い。
唯一の純血種と言われるキラで言えば、その価値はコロニー数基分とも言われている。
大きすぎて想像もつかないそれは、マスターが所有する猫耳キラに対する一生の全責任を負うと言う管理責任の金額とも言える。
生死や生殖管理、遺伝子管理も含めて、全てマスターに権限があるのだ。
ヒトの世界で異端の存在を飼育するのに必要な額が、ポンと出せるかどうかがマスターの資格や資質のひとつとされているのだ。
そのマスターの所有権の主張は、絶対のこと。
猫耳という異端の生き物の生態管理を怠ったとなれば、マスターにも大きな罰則が発生することも必至なのだ。
それを知れば、キラはマスターの元へ戻ったかもしれない。
だが今は、自分のせいで大切な人達が困っている事実にショックを受けて打ちのめされていた。
――シンくんはただキラのことで怒ってくれていたんだ。
詳しいことは分からないが、また問題は自分なのかとキラは額を膝に押しあてたまま震えを止めようとするが、うまくいかない。
今まで、キラがザラ家に居る事は秘密になっているが、その意味までは深く考えないようにしてきた。
行き場のない猫耳だから――ただそれだけだと思おうとしていたのだ。
でもそうではない。
キラのマスターはラクス・クラインという歌姫で、『アスラン・ザラ』ではない。
それは、ひどく悲しい事だと思った。

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ダブルシークレット 3

「キラは……ラクスと過ごした記憶がないから彼女を恋しがらないんだと思う。俺は彼女からキラに引き合わされはしたが、キラの寝顔くらいしか見た事がない。ラクスが意図的に眠らせていたことに意味があるとしたら、ここで自由にさせていいものか、俺には分からなくなる」
「そんなものが……忖度しなきゃならない内容ですかね」
チッと、シンのものらしき舌打ちが忌々しげに遮ったのを聞いたとき、キラは喉の奥になにかが詰まったように息が出来なくなった。
「だってそうでしょう? 病気でもないのに眠らせておくなんて、明らかにおかしすぎるだろっ。俺といたときもキラはオトナシイものだったよ。ほとんど抜け殻で、食事を摂る時間すら起きていられない。元々枯れ枝みたいな腕がどんどん細くなって透き通っていくんだ。そうやって衰弱して行くのがどんなものだったか、アンタらに見せてやりたい――。お陰でこっちは、どれだけ闇医者に金を注ぎ込むことになったか」
まくし立てるように、やりきれなさそうにシンは怒鳴った。
キラは打たれたように、身体を震わせた。
迷惑をかけていたのは知っていたが、シンの口から直接内容を知ったのは初めてだったのだ。
「……多分、眠らせておくことがキラにとって最良のコントロールだったのかもしれない。このデータが正しいとしたら、キラがあんなに幼いはずがない。それに、こんな風に幼いままに出来るなら、それを行ったことに根拠がないはずはないだろう。本当に俺の知る限り、彼女はずっとキラを大切にしていたんだよ」
噛んで含めるようにも、苦い物を飲み込むようにも聴こえるアスランの声には、それでも少しの動揺が窺えた。
そしてそれが、さらにシンの逆鱗に触れることに、きっとアスランは気付けなかったのだろう。
「……正しいって何だよ。成長や発達具合は個々人それぞれだろ? それとも赤ん坊みたいにしておくのが大事だとでも言うのか? まさか、猫だから寝るのが仕事だとか考えてるんなら、アンタらは何も分かってない。そう思ってんのなら、大層な口を叩くアンタらにだって猫耳はペット扱いってことだ。何しろ優秀なコーディネイターさまの好奇心で遺伝子を弄って作り出した愛玩動物だもんな」
自嘲と怒りに震えるシンの声は、無差別に世界を責めていた。
猫耳は遺伝子操作で外見を操作するだけではなく、純血種ならばマスターの育て方で、後付けコントロール出来ると言われている。
遺伝子を最高レベルまでコーディネイトした猫耳の純血種は、奇跡と賞賛されるほど稀有な存在であり、その遺伝子までも芸術と言われている。
唯一の成功例とされるキラという猫耳の価値は計り知れない。
本来ならば、研究室の奥深くに仕舞われているはずのものだったのかもしれない。
けれど、何も知らない猫耳の子供は、ザラ家の陽だまりの中で無邪気に居眠りをするだけだ。
あまりに危機感のない平和な寝顔は、幸せそのもので、見ているだけで皆が癒される。
特別でも何でもない、当たり前のような可憐さと稚さは、きっと研究室で育てられたならば、あの繊細な容貌にはけして浮かぶことはなかっただろう。
キラ本人に自覚がないよう育てられたのが、マスターの愛情の粋たるものだということは、本当は三人とも気付いていた。
腹立たしいながらも、引き換えにラクスの引き受けたリスクも想像することも出来た。
だが、ドアの向こうで、怒りに任せたシンの声を聴いて涙目のキラだけは知らない。
――アイガンブドウブツって何?
聞きなれない言葉に胸を痛める猫耳の子供は、頭の中がパンパンで、世界がだんだん暗く閉じていくのを感じていた。
窓の外は晴れていて、窓から緑が覗いていても、写真の中のように現実感が薄いのだ。
とりあえず、シンはシン自身のことで困っているわけではなくて良かったのだが、騒動の原因が自分となると複雑になる。
文字通りキラという『お荷物』を抱えたばかりにストリートを追われたシン。
キラはお荷物で、厄介者。
けれど、そんなものがキラのマスターは欲しかったのだろうか。
アスランからキラには本当のマスターがいて、ずっと彼女はキラを探してくれているのだと教えられていたが、それを知ってなお、キラはザラ邸に置いて貰っている。
皆と別れるのが嫌だったからだ。
ここにいていいと言って貰えたから、ここにいられた。
それなのに、ドアの向こうの声達は、寄ってたかって引き取ったことを後悔していると言っていたようで、キラはドアの前でペタンと座りこんでしまった。
アスランが、時期を見てラクス・クラインと会わせたがっているのも、何度も感じていたことだった。
――ここにいていいって言ってもらってるけど、迷惑はかけたくないし……アスランが困っているのだから、いつか会わなくちゃいけない。
そう思ってはいたのだ。
でも、どうすればいいのか分からない。
こんなとき、一人でどこかへ行ければいいのにとキラは思う。
いつか、遠くへ行けるようになりたい。
出来るだけ早く、遠くへ。
無力さを噛み締める背中で、ドア一枚向こうから漏れる声は重苦しく暗い。
「とりあえず落ち着け、シン。……キラがラクス・クラインから大切にされていたことは嘘ではないだろう。だが実際にキラは全く覚えていない。アスランはキラと面識があっただろうが、本人を保護したときは何ひとつ覚えてなかったんだろう? ここに来て、俺はキラからラクス・クラインの話を聴いたことは一度もない。強いて言えば、彼女からきた招待状の香りに少し反応した姿を見たことがあるだけだ。俺といても口を開けばいつもシンの話ばかりだった。キラにとって、シンが全てだったのは、間違いじゃない。だから君とキラとは特別だって思うのは自然だろう?」
落ち着いた声音だが、自嘲的な口調はアレックスらしい。
それに、シンのヤケクソぎみの声が重なった。
「それこそ勘ぐりすぎですよ。……とりあえず言われる前に言っておきますけど、俺はアイツに何も疚しいこと何もありませんよ? 拾ったのも捨てたのも俺だけど、それはアンタらみたいな豪華な食事も安全もアイツにやれなかったからだ。捕まったら可哀相だから、そのときは殺してやることが幸せだと思っていた。だから……誕生日なんてオメデタイ余裕は頭を掠めもしなかったよ。アイツは俺とは違う。それにアイツの耳には、初めから鑑札タグだって打ち込まれていなかった。それで俺にキラの情報なんか分かるはずがない」
普通の猫耳には、生まれてすぐに鑑札証が打ちこまれると言う。
テディベアのタグのようなそれには、登録された情報チップがあり、その猫耳自身のデータが記録され更新されることになっていた。
「シンは自分でタグを千切っていたと言うのは本当か」
「ああ、家畜じゃあるまいし、あんな物を付けられて嬉しい奴がいるかよ。アンタらだったら自分の耳にあんな物をつけられていたとしたらどうだよ?」
犯罪者ならば身体にチップを埋め込まれるが、要はそれと同じだと、シンは毒づいた。
この話題は、シンにとって楽しい話ではないはずだった。
それも、ここでザラ家の二人に怒りをぶつけても仕方ないはずからだ。
それなのに、敢えて傷口に指を突っ込んで掻き回さなければならないシンの気持ちを思うと、キラは泣きそうになる。
シンが自分のために、敢えてそうしているのではないから。
――きっと、キラのせいだ。
きっとアスランやアレックスには、あの夜の匂いや、ヒヤリと心臓を押し潰されそうな恐怖を、けして想像できないだろう。
キラとて、誰かに分かって欲しいとも思わない。
自分の心の中で小さく畳んで、その上に楽しい事をかぶせて隠していく。見えない見ない。
シンがそうしていたから、キラもそうした。
それを、三人がかりで掘り起こさなければならないほどのことがあったのだろうか?

-----
今朝は寒いです。
横になるときついので徹夜してしまいました。

とりあえず続きあげときます

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ダブルシークレット 2

昨日の夜、予定よりも早く戻ってきたシンは、久しぶりのせいかとても優しくて、キラの目の前に、お土産をたくさん並べてくれた。
内緒でゲームもくれたし、街で買ってきたというジャンクフードも気前良く分けてくれた。
もう冷めてしまったハンバーガーにポテト。
それから、色んな色のキャンディ。
中でも派手な色のチョコバーは、路地裏で食べた懐かしい味で、もう一度食べたいと思っていたものだった。
きっと、お抱えパティシエのいるザラ家で見せれば眉を顰められるだろうが、添加物でいっぱいのチョコバーは、あの頃のキラたちにとって、何よりも大切な栄養源だった気がする。
シンは屋敷から外に出る機会が多いので、今でも口にしているようだったが、なかなかキラにはくれなかった。
アスランから止められているらしく、絶対に駄目だと取り付くしまもなかったのに、昨日は特別だった。
「二人だけの秘密だからな」
ひどく喜ぶと、シンは照れ隠しに怒った顔を作っていたが、嬉しいか? 美味しいか? と、何度も聞いてくるのが子供みたいで可笑しかった。
長期勤務から戻ったばかりで疲れているはずなのに、小言付きではあったが髪を洗ってくれて乾かしてくれた。
あんまり優しいから夢みたいで、キラは思わず目の前にあったシンの鼻を摘まんでしまい、バスタブに埋められそうになったほどだ。
夜だから静かにするようにと執事から窘められるほど楽しくて嬉しかったのに――本当に何があったのだろう?
アスランの部屋からシンの怒鳴り声がしたということは、アスランと何かあったのだろうか。
優しいけれど、アスランは気難しくて時々怖い。
今朝、アスランを起こしに行ったときには、特別何も感じなかったが、機嫌が悪いのかもしれない。
寝起きが良くないのはいつものことだから、怒ってはいなかったと思うのだが、とりあえずシンがピンチなのだからキラが頑張るしかない。
「よいしょっとっ」
いくつも踏み台を重ねてアスランの寝室の窓によじ登ると、キラは音ひとつ立てずに床に飛び降りた。
小さいながらも身のこなしはなかなかなものだが、腰の引けた所作は、ぎこちなくて、初めて狩りをする仔猫のよう。
飛び降りたときに背後にレースのカーテンが広がった。
室内は穏やかな静寂に包まれたままで、こんな形で潜入したキラの気分はスパイ映画そのもの。
潜めた息を吐いても、心臓がバクバクと音を立てた。
今朝、この窓を開けて、この場所から庭を眺めたときは、こんなことになるとは思わなかったが、緊急事態はいつも突然だ。
ドアの向こうの次の部屋が、シンの声がした執務室だった。
飛び込みたいが、まだ様子が分からない。
アスランの部屋のチョコレートのようなドアは、重厚で防音防炎の優れ物だった。
外側から引くと音がするのに、ひどくゆっくりと内側から押せば、音もなく開く。
以前、間違えてドアを引いていたキラに、アスランが教えてくれたのだ。
無理やり髪を洗ってくれようとしたメイドから逃げていた時に、そうやって匿ってくれた。
そのときの事を思い出しながら数ミリ動かしたドアは、室内の声や物音を聞きとるには十分ではあったが、予想以上に人の気配が近くて、キラは息を殺して目を伏せた。
――ドアを動かしたら、きっとバレる。
部屋に繋がるドアに耳をつけると、くぐもっていはいたが、ハッキリした声がドアから伝わってきた。
「――で、オマエはどうなんだよ。……クライン家でキラと面識があったのは、この中でオマエだけだ。本当に何も知らなかったのか?」
よく知っている、大人っぽいのに、ほんの少しだけ拗ねたような声。
直感的にアレックスの顔がキラの脳裏をかすめた。
アレックスがアスランの部屋にいるのは、とても珍しいことだった。
やはり、なにか大事な話なのだろう。
「知らなかったと言うか……残念ながら、キラについては俺もそんなに詳しくはないんだ」
溜息のようなアスランの声が応えた。
それは薄く開いたドアの真ん前から聞こえて、キラの場所から気配が一番濃い。
――シンは?
ドアの向こうからは、今のところシンの気配は聞き取れず、もしかしたら、もう出て行ってしまったのではないかと心配になったが、不意に聴こえた小さな舌打ちは紛れもなくシンのもの。
やはり3人いるのだ。
先ほどの剣幕は、もう過ぎ去ったようだが、シンの舌打ちは、やはり不穏だった。
キラは息を凝らして、さらに耳を澄ますと、急にドアのすぐ付近から声がして、その不意打ちには飛び跳ねた心臓を押さえなければならなかった。
「あの頃、ラクスから引き合わされても、まるで反応を試されているような気がして、出来るだけ関わりになりたくないと思っていたし、実際に、あの頃の俺には、そんな余裕もなかったから、キラについてはラクスに何も聞いてはいない」
キラについて――と、思いがけず自分の名前が出されて、キラはコクンと息をのんだ。
何故、自分の名前が出るのだろうか。
――どういう、こと……?
さらに、固い声で関わりあいになりたくなかったと言われ、少なからず傷ついていた。
優しいけれど、いつも本音を話してくれないと思っていたアスランの、本当の本音を聞いたようで、キラの胸は、なおさら軋む音をたてた。
確実なのは、この部屋にはアスランとアレックスがいること。
先ほどオマエと呼んだのも、今、呼ばれて応えたのも、全く同じ声質だが別人だ。
ふたりとも同じ顔をしたザラ家の双子は声質まで同じ。
彼らは、入れ代わっても見分けがつかないほど同じで、初めはキラも完全に二人を取り違えた。
微細な違和感があっても、それに気付くほど二人と親しくなかったせいもあっただろう。
任務で家を空けていたアスランが屋敷に戻って来るまで、彼らが双子だということすらキラは知らなかったのだ。
だが、先ほどのアスランの話のように、キラはアスランとだけは、以前に面識があったらしい。
だからこそ、アスランが奔走して保護してくれたのだと合点がいくが、キラの記憶は曖昧すぎて真っ白だったし、ザラ家で保護された当初は、狩られたのだと思いこんで、逃げる事しか考えていなかった。
実際、キラは自分とシン以外の誰の名前も知らなかったし、シンに拾われてからも眠ってばかりで、覚える余裕もない有様だったのだ。
その頃のキラは、すでにおかしかったのだろう。
すぐに水すら飲む力がなくなり、極度の衰弱で動けなくなって、シンを困らせたのちにアスランに保護されたのだ。
さらに、今のように動き回れるようになったのは、ザラ家に来て、手厚い看護を施されてしばらく経ってからだった。

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思うように時間がつかえてなくて
なんか色々ありました。

拍手を下さる方ありがとうございます。
ヾ(๑╹◡╹)ノ"嬉しいです。

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