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ザックスくん

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ダブルシークレット9

「アスランさん、もういらしてたんですか」
潜めた声はシンで、その声にアスランの腕が微かに震えたのをキラは感じた。
「あっちはアレックスさんが足止めする予定だけど。でも、ヘリは無理だと思う。エレカはいつもの場所に」
シンなら助けてくれると思って、もがいてアスランの腕から顔を出すと、もう外は真っ暗で屋敷から漏れた光が遠ざかる。
顔をあげたとき、ちょうどシンが目の前にいた。
シンは一瞬、怯んだ顔をしていたが、思い直したように、クシャリとキラの前髪を撫でた。
「アレ? 何で泣いてるわけ?」
何でではないと、出来るなら叫びたい。
キラの気持ちも知らず、緊迫感ものない調子で、おどけて微笑まれると余計に泣けてくる。
「シンく……」
声が詰まって上手く出なくて悔しい。
それよりも、アスランから捨てられたら、シンにもう会えない。
捨てられるようなことをした自分が、情けない。
猫耳があるときから、シンは秀でていた。
あんなふうに上手くやれない自分が、キラは悲しい。
「まあ、しょーがない。キラが悪いんだぞ? ともかくアスランさんに叱られて当然な」
押さえ込むように、ぽふぽふ頭を撫でたシンの手は温かい。
「別に俺は叱ってないぞ」
キラの頭の上から憮然としたアスランの声がしたが、怒っているように聴こえてキラはこわくて振り向けない。
「じゃあ、なんでキラが泣いてるんですか?」
昼間の剣幕が嘘のように、シンはニヤニヤしていて、からかうように何度もキラの髪をさわってくる。
確かにアスランは大きな声で怒ったりしなかった。
なのに、勝手に決め付けて可笑しそうに笑うシンがうらめしい。
キラ的には事態は深刻なのに、アスランもシンも緊張感が薄い。
キラは耳を垂れ、アスランの腕の中で唇を噛む。
「アスランさんは厳しいけど、現場ではもっと鬼だぞ。あの調子で叱られたら、キラなんか腰を抜かすだろうなあ」
昼間、怒鳴っていたシンが鬼のように思えて、潜入せずにはいられなかったキラの気持ちなど、絶対に分かってもらえそうにない。
とりあえず本当に叱られてはない――と思うと、気弱な訴えでも出してみようかと思ったが、声を立てるなと言われていたのを思い出して口を噤んだ。
黙りこんだキラの頭の上で、アスランとシンは短い言葉で何かの打ち合わせをしている。
キラなど眼中にないような、生き生きしたシンの顔がキラにはとても眩しくて、胸が痛い。
眩しくて、周りの景色もソフトフォーカスがかかってしまう。
夕方過ぎて気温が下がり、頬を撫でる風がピリピリして冷たい。
意気地なく泣いているせいだろうか。
今回珍しく、シンはキラの肩を持ってくれなかった。
シンだけは味方だと思っていたのに、今日はいつもよりもずっと余所余所しい気がした。
そういえば、ザフトの仕事から戻って来るたび、シンが遠くなっているような気がする。
考えまいとしてきた、そのこと。
遠くなるほど、シンが幸せそうに見える。
それを不満に思ってはいけないと知っていたが、目の前のその手を求めることが、シンの負担にしからなないことが悲しくてならない。
キラに出来る事は、両手を握りしめることだけだ。
動かなくなったせいか、眠っていると思われたようだ。
「おーい、起きてるか? アスランさんは疲れてんだから、あんまり迷惑かけるなよ?」
シンは俯いたキラ顎を持ち上げて視線を合わせ、無邪気に唇の端をあげて笑った。
「シン、キラが眠るなら、そっちを優先させてやってくれ」
「分かってますよ! 分かってるけど、眠ってちゃ意味ないでしょ。何のために行くんですか」
「シンが抱いてシートに乗ってくれれば、問題ないと思うが」
「冗談じゃないですよ! アレックスさんに足止めさせて、俺が付いて行ったら、今度はアッチに拗ねられますよ」
「上官の命令、でもか?」
「あー、きったねえ! っていうか、俺、本当にアンタらの間に入って、ヘンな恨み買いたくないですよ――って、あ!」
中庭の向こう側の厨房のドアが開いて明かりが漏れたのをみて、シンが叫んだ。
「俺、ちょっと貰って来ますね」
言い残して、風のように行ってしまうシンに、思わず手を伸ばしそうになって、我に返ったキラは、もう一度指を握りしめた。
「キラ?」
アスランの声が上から降りてきたが、抱かれたその腕にしがみつくことが出来なくて、身体を固くするしかない。
その固くなった身体を、ポンポンとあやされたが、どうする事も出来ない。
「気分が悪いようだから戻ろうか」
溜息のようなアスランの声がして、ゆっくりと踵を返されるのが分かった。
――捨てるの、やめるの?
小さくしゃくりあげたキラの声に気付いたのか、行こうとしていたシンが戻ってきた。
「ちょっと、アスランさん! どこ行くんですか。勝手な事しないで、ここでキラと待っていてくださいよ。何やってんですか」
「いや、やっぱり今日はやめよう。キラも疲れているし」
「は? 今さら、何勝手な事言ってるんですか。さっきまでグースカ寝てたキラが疲れてるわけないでしょうが! どんだけ過保護なんですか。っていうか……アンタはまた、ヘンなところで」
それに続く――意気地がないんだから、という葉擦れのような声無きシンの呟きがキラの耳にはハッキリと聴こえた。
それを自分の事だと、キラの頭は短絡的に処理した。
前後の脈略が無いのは、いつものことだ。

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