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ザックスくん

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ダブルシークレット10

何故なら、自分のことで精一杯で頭がパンクしそうだったのだ。
――意気地がないって言われた。
他の誰でもないシンの口から言い放たれた。
いつもからかわれているし、意気地のないのも本当のことだったが、考えすぎて萎縮しきっているキラの心は、崖から突き落とされたようなショックを受けていた。
――だって、みんなキラがいなくなったほうが幸せなんだもん。
分かってはいても、簡単に折り合いを付けられるほど、人生経験を積んでいない。
「キラは大丈夫だよな?」
兄のような口調で簡単にシンが言う。
頷くよりも顔が見たくて見上げると、そんな涙目のキラを見て、シンは吹き出した。
「なんだよ、その顔! 相変わらずガキだなあ」
上着の袖で涙を拭いてくれながら、安心したみたいに笑っている。
その瞳の中に宿る、揺るがない強さが眩しすぎて、キラは俯いてしまう。
シンの笑顔が淋しくて淋しくて仕方なくなるのは、お別れの前だからだ。
「いつまで拗ねてるんだよ、ガキだなあ」
呆れたような嬉しそうな声は、シンが上機嫌な証だった。
返事をしなくちゃいけなかったのに、上手く出来ない。
どうしても平気になれなかったからだ。
「さて、俺は本当にもう行きますよ。アスランさんはキラとエレカで待っておいてください」
腰を上げてそれだけ言い残すと、飛ぶように闇に消えて闇に紛れ、気付けば後方の茂みの奥にいる。
ちょうど厨房のある辺りだ。
厨房の裏口のドアが開いたままだったせいか、夕食の良い匂いが漂ってきて、余計にキラを泣かせた。
いつも作って貰っていた美味しいゴハンやお菓子とも、もうお別れしなくちゃならない。
「だいじょうぶか? シンは、ああ言っているけど無理することはないから」
アスランの言う、何が無理なのか分からない。
アスランがキラをマスターの元へ戻したくて、みんなと喧嘩をしていたのをキラは知っている。
だから、三人一致で戻すことに決まったのではないのだろうか。
アレックスもシンも、それがいいと同意したのだろう。
そうすれば、三人とも喧嘩をすることなどなくなる。
こんな風に、要らない物のように戻されるのは悲しい。
いっそのこと、心配などしないでくれたらいいのに。
「行った方がいいって、シンが言ってたから……だからヘイキ」
抱かれた腕のシャツを掴んで見上げると、少し考え込んだアスランは、ゆっくりと歩き出した。
ここへ来て、ずいぶん経つが、初めて通る通路だった。
アスランは何も喋らなかった。
そして道なりに進むと、敷地のはずれに濃いシールドの貼ってある流線形のエレカが停まっていた。
その助手席のシートにキラは降ろされた。
エレカに乗ったのは、まだ二度しかない。
そのうちの一度は、アスランに拾われたときで、意識が朦朧としていて覚えていない。
のこりは、シンに拾われる前で意識すらなかった。
あたりが暗いせいか、ひどく不安になった。
地獄へ連行する車なのかもしれない。
「嫌かもしれないけど、耳は隠したほうが無難だろうから我慢して」
アスランは、キラごと抱いていたブランケットをキラの頭に丁寧にかけて耳を覆うと、そのままそっと頬を撫でた。
「苦しくない?」
優しい眼差しと声が辛くなる。
宝石を包むように、大切に、アスランはキラに触れた。
そんなアスランに『必要とされない』ことが、悲しくてならない。
アスランは優しくて、悲しい瞳をしている。
キラでは一度も笑わせてあげる事が出来なかった。
「だいじょうぶ?」
何も言えないでいると、何度も頭を撫でられる。
せめて困らせたくなくて頷いていた顔をあげると、アスランの白い容貌が息のかかる距離にあって、キラは驚いて自分の身体をシートに押し付けた。
ちっぽけなキラを抱くように、長い腕が伸ばされる。
怯えているように見えたかもしれない。
自嘲的な唇の端が淋しげに見えて、胸が痛んだ。
キラは何か喋ろうとしたが、言葉が見つからない。
「そんなに怖がらなくても、何もしない」
溜息のような声がした。
だが、そのまま隙なくシートベルトを装着されると、もう逃れられない気がして喉が鳴った。
思い返せば、拾って貰ってから色んなことがあった。
屋敷の中は、温かくて美味しくて楽しい事ばかりだった。
お世話になった執事に挨拶をしたかったが、とても言い出せない。
静かに俯いていると、突然、エレカのフロントガラスがノックされた。
「アスランさん、これ」
暗闇の中、息を切らしたシンが助手席のドアを開けて、キラにバスケットを抱えさせた。
「しっかり持って、落とすなよ」
シンは晴れやかに微笑んだ。
バスケットからは、お菓子の甘い香りが漂ってきた。
今から行く、マスターへの、お土産なのかもしれない。
クリームとカスタードと苺の匂い。
もう食べられないと思うと、とても残念だった。
「アスランさん、帰りの時間を一応教えておいてください」
昼間、あんなに怒っていたとは思えない笑顔だった。
一瞬、助けに来てくれたのかと期待してしまった自分に気付いて、キラは唇を噛んだ。
アスランとシンが小声で何かを話している姿は、頭をくっつけんばかりに距離が近い。
――シンはアスランに必要とされていていいな。うらやましい。
黒い影が動いて、アスランがエレカの運転席へと滑りこんできた。
キラの横でコンコンと窓を叩く音と同時に電子音がし、パワーウィンドウが降りた。
「じゃあな」
シンが元気に手を振った。
その姿が遠ざかると同時に窓が閉まり、あっけなくシンは夜の闇に紛れて消えた。
あまりに急な別れだったが、スッキリしたシンの笑顔がキラの胸を締め付ける。
ここへ来る前に別れたときも、シンはあんなふうに笑っただろうか?
厄介者がいなくなって、よかったと思っただろうか。
それでも、今日までキラはシンに救われたのだ。
結局、ありがとうもサヨナラも言えなくて、キラは黙ったまま泣いていた。


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もう4月。
桜の季節ですね。早いなあ……。
トロトロしてばかりいないで、てきぱきこなしたいですヾ(o゚ω゚o)ノ゙

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